厚生年金に加入するには?加入方法と法人化との関係を解説
はじめに
厚生年金は、日本における公的年金制度の中核を担う仕組みであり、会社員や公務員を中心に多くの人が加入しています。老後の生活を支える年金給付の基盤となるだけでなく、障害や死亡といった不測の事態に備える保障機能も持っています。
一方で、「厚生年金に加入するにはどうすればよいのか?」「個人事業主は加入できないのか?」「法人化すると厚生年金に入らなければならないのか?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
本記事では、厚生年金の基本から、加入条件、具体的な手続き、法人化との関係までを分かりやすく整理して解説します。社会保険制度を正しく理解することで、将来の生活設計や事業運営に役立ててください。
1. 厚生年金とは?
厚生年金は、日本の公的年金制度の一つで、国民年金(基礎年金)の上に上乗せされる「2階部分」にあたります。すべての国民が加入する国民年金に加えて、会社員や公務員といった被用者が対象となる仕組みです。
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国民年金(1階部分)
全国民共通。20歳から60歳までのすべての人が加入。老齢基礎年金が受給できる。 -
厚生年金(2階部分)
会社員、公務員などが対象。保険料は給与に比例し、将来の年金額も報酬比例で計算される。
厚生年金に加入することで、老後に受け取れる年金額は国民年金だけの場合よりも大幅に増え、老後資金の安定につながります。また、在職中に病気やけがで障害状態になった場合や死亡した場合にも「障害厚生年金」「遺族厚生年金」といった保障が用意されています。
2. 厚生年金の加入対象者
厚生年金は、すべての働く人が自動的に加入できるわけではありません。法律で定められた条件を満たす必要があります。
2-1. 会社員(正社員)
法人や個人事業主のもとで働く正社員は、原則としてすべて厚生年金に加入します。事業主は社会保険の適用事業所となり、従業員を加入させる義務があります。
2-2. パート・アルバイト
近年は「社会保険の適用拡大」によって、短時間労働者も一定条件を満たすと厚生年金に加入できるようになりました。条件の一例は以下の通りです。
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所定労働時間が週20時間以上
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月額賃金が8.8万円以上(年収換算約106万円)
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勤務期間が1年以上見込まれる
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学生でないこと
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従業員101人以上の企業(2024年10月以降は51人以上の企業に拡大)
これにより、パートやアルバイトであっても厚生年金に加入できるケースが広がっています。
2-3. 役員(法人)
法人の代表取締役や取締役も、会社から報酬を受け取っている場合は厚生年金に加入します。自分が経営者であっても、法人を設立すれば「従業員」として扱われるからです。
2-4. 個人事業主
個人事業主は、原則として厚生年金に加入できません。自分が経営者である場合は「国民年金(第1号被保険者)」となります。ただし、従業員を雇って法人化すれば厚生年金に加入対象となります。
3. 厚生年金に加入するメリット
厚生年金に加入すると、国民年金だけの人と比べてどのようなメリットがあるのでしょうか。
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老齢厚生年金が上乗せされる
将来の受給額は国民年金だけより多くなる。平均的な会社員なら月額数万円以上の差が出る。 -
事業主と折半で保険料を負担
厚生年金の保険料は労使折半。従業員は半分だけ負担すればよい。 -
障害や死亡時の保障が充実
障害厚生年金や遺族厚生年金が受け取れる。国民年金より給付水準が高い。 -
健康保険とセットで加入
厚生年金に加入する際は健康保険(協会けんぽや健康保険組合)にも同時加入。医療保障も整う。
4. 厚生年金への加入手続き
では、実際に厚生年金に加入するにはどのような手続きが必要なのでしょうか。
4-1. 法人の場合
法人(株式会社、合同会社など)は、設立と同時に強制的に社会保険適用事業所となります。代表取締役を含めた役員・従業員を全員、厚生年金に加入させる必要があります。
手続きは以下の流れです。
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法務局で法人設立登記を行う
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日本年金機構に「新規適用届」を提出
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役員や従業員について「被保険者資格取得届」を提出
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保険証が発行され、厚生年金加入完了
4-2. 個人事業主の場合
個人事業主は、原則として強制適用外です。ただし、常時5人以上の従業員を使用する一定の業種(法定適用業種)では、事業所単位で社会保険加入義務が生じます。
その場合は、日本年金機構に適用手続きを行い、従業員を厚生年金に加入させます。ただし、事業主本人は国民年金のままです。
4-3. 任意適用事業所
従業員が5人未満の個人事業所や一部業種の場合でも、事業主と従業員の合意があれば「任意適用」として厚生年金に加入することができます。この場合、日本年金機構への申請が必要です。
5. 法人化と厚生年金の関係
個人事業主が法人化を検討する際、社会保険(厚生年金)への加入が大きなポイントとなります。
5-1. 法人化すると強制加入
法人を設立すると、規模に関係なく必ず厚生年金・健康保険に加入しなければなりません。たとえ従業員が代表取締役1人だけでも強制適用となります。
5-2. 保険料負担の増加
厚生年金は労使折半で保険料を負担します。代表取締役しかいない場合でも「会社」と「個人」で半分ずつ支払う形となり、結果的には全額自己負担に近くなります。そのため、法人化によって社会保険料負担が増えるケースが多いです。
5-3. 法人化のメリットとのバランス
ただし、法人化して厚生年金に加入することで、以下のメリットがあります。
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老後の年金額が増える
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医療保険(健康保険)が充実する
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経営者も労働者と同じ保障を受けられる
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社会的信用力が高まり、融資や取引に有利
法人化を検討する際は、社会保険料負担と保障内容のバランスを考えることが重要です。
6. 厚生年金保険料の計算方法
厚生年金の保険料は、給与や賞与に応じて計算されます。
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標準報酬月額 × 保険料率(18.3%)
→ 会社と従業員で折半(9.15%ずつ)
例えば、月給30万円の場合:
30万円 × 18.3% = 54,900円
会社負担:27,450円
従業員負担:27,450円
賞与についても同様に計算されます。
7. 加入しないとどうなる?
法人が厚生年金に加入しないまま放置すると、法律違反となります。日本年金機構からの調査や指導を受け、未加入が発覚すれば遡及して加入させられる可能性があります。過去2年分の保険料をまとめて請求されるケースもあり、経営上大きなリスクです。
また、従業員にとっても将来の年金額や医療保障に影響が出るため、採用にも不利になります。
まとめ
厚生年金は、会社員や公務員を中心に加入する「2階建て年金制度」の重要な部分です。
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正社員だけでなく、条件を満たすパート・アルバイトも加入可能
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法人の役員も報酬を受け取っていれば加入義務あり
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個人事業主本人は加入できないが、法人化すれば必ず加入
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保険料負担は増えるが、老後の年金額や保障内容が大幅に改善
特に法人化を検討する際は、厚生年金の加入義務と保険料負担を正しく理解しておくことが重要です。
社会保険は事業運営のコストであると同時に、自分や従業員の生活を守る大切な制度でもあります。