扶養から外れるとどうなる?社会保険の落とし穴
はじめに
「扶養に入っているから安心」と思っていたのに、年収が上がったことで突然「扶養から外れます」と告げられるケースは珍しくありません。特にパート・アルバイトで働いている方や、夫婦共働きで配偶者控除や社会保険の扶養を利用している方にとっては、収入の変動によって思わぬ負担が発生することがあります。
本記事では、社会保険の「扶養から外れる」ことによってどのような影響があるのかを整理し、注意すべき落とし穴とその対策を詳しく解説します。
1. 扶養には2種類ある
まず前提として「扶養」という言葉には2種類あることを理解する必要があります。
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税法上の扶養(配偶者控除・扶養控除など)
→ 所得税や住民税に関わる仕組み。 -
社会保険上の扶養(健康保険の被扶養者、厚生年金の第3号被保険者)
→ 健康保険や年金に関わる仕組み。
この2つは似ていますが、要件や影響が異なります。本記事では特に「社会保険上の扶養」から外れた場合の影響を中心に説明します。
2. 社会保険の扶養に入れる条件
社会保険上の扶養に入るためには、健康保険と年金制度の両面で基準があります。
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収入基準(一般的な目安)
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年収130万円未満(かつ月収108,333円未満)であること。
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ただし、勤務先が社会保険適用拡大の対象事業所(従業員101人以上の会社など)の場合は、週20時間以上勤務・月額8.8万円以上で加入対象になる可能性あり。
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被扶養者の範囲
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配偶者、子、親、孫、祖父母など、主に生計を一にしている親族。
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年金(第3号被保険者)
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厚生年金に加入している配偶者の扶養に入る場合、年収130万円未満であれば第3号被保険者として国民年金保険料を納めずに保障を受けられる。
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これらの条件を超えると「扶養から外れる」ことになります。
3. 扶養から外れるとどうなる?
扶養から外れると、次のような変化があります。
(1) 健康保険の変化
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扶養に入っていれば「保険料ゼロ」で健康保険証が使えます。
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外れると、自分で健康保険に加入する必要があります。
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勤務先の社会保険に加入する
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加入できない場合は国民健康保険に加入する
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その結果、毎月数千円~数万円の保険料が発生します。
(2) 年金の変化
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扶養内(第3号被保険者)なら国民年金の保険料を払わなくても、将来の年金額に反映されます。
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外れると、自分で年金に加入し保険料を払う必要があります。
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勤務先で厚生年金に加入する
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自営業や短時間労働で対象外の場合は国民年金に加入し、自分で月額約16,000円(2025年度)の保険料を支払う
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(3) 家計への影響
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保険料負担が増えることで、手取り収入が大きく減少する可能性があります。
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年収が130万円を少し超えただけでも、年間で数十万円の保険料負担が発生し、「働いたのに損をする」という状況になりかねません。
4. 落とし穴に注意!よくあるケース
ケース1:年末調整直前に扶養から外れる
年収見込みが130万円を超えた場合、健康保険組合や会社から「扶養削除」を求められることがあります。年末に急に判明し、慌てて国保や年金加入の手続きをするケースも少なくありません。
ケース2:適用拡大により強制加入
2024年から従業員51人以上の企業にも社会保険適用拡大が行われました。週20時間以上勤務していると、たとえ年収130万円未満でも社会保険加入が必要になる場合があります。これにより「自分は扶養に入っているから大丈夫」と思っていた人も対象になることがあります。
ケース3:収入調整で損をする
「130万円を超えると損」と思い、労働時間を減らす人も多いです。しかし、厚生年金に加入すると将来の年金額は増え、医療保障も手厚くなるため、一概に損とは言えません。
5. 扶養から外れたときの対策
扶養から外れるのは必ずしも悪いことではありません。大切なのは「正しく理解して準備すること」です。
(1) 年収の見込みを早めに確認
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会社に提出する「扶養控除申告書」や健康保険組合への届出では、収入見込みが基準になります。
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年途中で収入が増える場合は、早めに確認しておきましょう。
(2) 社会保険加入と国保・国年加入の違いを理解
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勤務先で社会保険に加入できるなら、保険料はかかりますが将来の年金や保障は充実します。
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国民健康保険と国民年金に加入する場合は、保険料は自分で全額負担する必要があります。
(3) 長期的なライフプランを考える
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「今は手取りが減るけど、将来の年金額が増える」ことを理解しておく。
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扶養にこだわりすぎず、自分のキャリアや働き方に合わせた判断をしましょう。
6. 扶養から外れるメリットもある
「扶養を外れる=損」というイメージを持つ人は多いですが、次のようなメリットもあります。
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厚生年金に加入すれば将来の年金額が増える
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失業した場合に雇用保険の失業給付を受けられる
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傷病手当金や出産手当金など、健康保険の給付を受けられる
特に出産を予定している女性の場合、出産手当金や育児休業給付は扶養では受けられないため、社会保険に加入した方が有利なケースもあります。
7. まとめ
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扶養には「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」がある。
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年収130万円を超えると社会保険上の扶養から外れるのが一般的。
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外れると自分で健康保険・年金に加入し、保険料を負担する必要がある。
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一時的に手取りは減るが、将来の年金や社会保障は充実する。
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短期的な損得だけでなく、長期的なライフプランを見据えて判断することが重要。
扶養から外れることは「落とし穴」に感じるかもしれません。しかし、それは必ずしも不利益だけではなく、将来への投資でもあります。働き方や家計のバランスを見ながら、制度を正しく理解して賢く選択していきましょう。