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社保の適用拡大で何が変わる?

2025.09.07【社会保険・年金関連

目次

社保の適用拡大で何が変わる?

はじめに

ここ数年、社会保険(社保)の「適用拡大」という言葉を耳にする機会が増えてきました。従来、正社員やフルタイム勤務の人を中心に適用されていた厚生年金や健康保険といった社会保険制度が、短時間労働者やパートタイマーなどへも広がりつつあります。これにより、これまで「扶養の範囲内で働く」ことを選んでいた方や、フリーランス・副業を行う方にも影響が及ぶ可能性があります。

本記事では、

  • 社会保険の適用拡大の背景

  • 具体的に変わる条件や仕組み

  • 個人事業主、副業ワーカー、パート・アルバイトへの影響

  • 今後の働き方への影響と対策

を丁寧に解説していきます。


社会保険とは?

まず、「社会保険」とは何かを整理しましょう。一般的に「社保」と呼ばれるものは、以下の4つを指します。

  1. 健康保険(医療保険)

  2. 厚生年金保険

  3. 雇用保険

  4. 労災保険

ただし、日常会話で「社保完備」という場合、多くは 健康保険と厚生年金保険 を指しています。これらに加入することで、病気やケガ、老後の生活、障害や死亡といったリスクに備えることができます。

これまでパートやアルバイトの人は勤務時間や勤務日数が短いため、加入対象外となるケースが多く、国民年金・国民健康保険に加入していました。しかし、制度の見直しにより「短時間でも一定条件を満たせば加入対象となる」方向に変わってきています。これが「適用拡大」です。


適用拡大の背景

なぜ、適用拡大が進められているのでしょうか?背景には以下の3つがあります。

1. 少子高齢化と年金財政の安定

日本は世界でも有数の少子高齢化社会です。年金を支える現役世代の人口が減る一方で、年金を受け取る高齢者は増加しています。このままでは年金制度が持続困難になるため、より多くの労働者に厚生年金に加入してもらい、保険料収入を確保することが重要視されています。

2. 働き方の多様化

共働き世帯が増え、副業やフリーランスという働き方も一般化してきました。特に女性や高齢者が短時間勤務を選択するケースが多く、これまでの「正社員中心の制度設計」ではカバーできない状況となっています。

3. 格差是正

正社員と非正規社員では、同じ仕事をしていても保障に差があるケースが多いです。社会保険の適用を拡大することで、非正規労働者の老後保障や医療保障を充実させ、格差を是正する狙いもあります。


社保の適用拡大で具体的に変わる条件

厚生労働省の段階的な制度改正により、適用拡大は少しずつ進んでいます。特に注目すべきは「短時間労働者(パート・アルバイト)」の加入条件です。

これまでの基準

フルタイムの4分の3以上働く人(例:週30時間以上)が対象。

適用拡大後の基準

2022年10月以降、以下の条件を満たす場合に加入が義務化されています。

  • 週20時間以上勤務

  • 月額賃金が8.8万円以上(年収換算106万円以上)

  • 勤務期間が2か月超見込み

  • 学生ではない

  • 従業員数101人以上(2022年10月以降)、51人以上(2024年10月以降)の企業で働いている

つまり、2024年以降は従業員51人以上の企業でパート・アルバイトとして週20時間以上働くと、自動的に社会保険に加入することになります。


適用拡大によるメリットとデメリット

では、実際に適用拡大で労働者にどのような変化があるのでしょうか。

メリット

  1. 厚生年金に加入できる → 老後の年金額が増える

  2. 健康保険の給付(傷病手当金、出産手当金など)を受けられる

  3. 医療費の自己負担が減る(高額療養費制度も利用可能)

  4. 国民健康保険・国民年金より保険料の自己負担が軽くなる場合もある

  5. 将来の保障が充実し、安心感が増す

デメリット

  1. 手取り収入が減る(保険料を給与から天引きされるため)

  2. 「扶養内で働きたい」と考えていた人は調整が難しくなる

  3. 副業収入と合算されることで扶養から外れる可能性がある

  4. 企業側にもコスト負担が増えるため、雇用調整のリスクがある


個人事業主への影響

個人事業主は基本的に 国民健康保険と国民年金 に加入します。したがって、今回の適用拡大による直接的な変更はありません。しかし、副業で会社に勤めている場合は状況が変わります。

  • 本業:個人事業主(国保+国民年金)

  • 副業:週20時間以上勤務 → 社会保険加入義務あり

この場合、副業先の社会保険に加入し、国民健康保険からは脱退することになります。また、厚生年金に加入できるため、将来的な年金額の増加につながります。

つまり「事業収入+会社勤務」のハイブリッド型の働き方をする人にとっては、適用拡大はメリットが大きいといえます。


副業ワーカーへの影響

副業ワーカーの場合も、どの勤務先でどれだけ働くかによって扱いが異なります。

  • 本業が正社員で既に社保加入 → 副業では追加の加入義務なし

  • 本業がフリーランス、副業で週20時間以上 → 副業先で社保加入

  • 複数の副業を掛け持ち → 主たる勤務先が判断基準となる

副業の拡大により、「複数の収入源を持つ」人が増えていますが、社会保険制度は基本的に「勤務時間が長い会社で加入する」というルールのため、どこで働くのかが重要になります。


企業側への影響

企業にとっても、適用拡大は大きな課題です。特に中小企業は、従業員数が51人を超えるとパート・アルバイトにも社保加入義務が生じるため、コスト負担が増えます。その結果、

  • 労働時間を調整して適用を回避する

  • 人件費増加を価格転嫁する

  • 雇用形態を見直す

といった対応が予想されます。

一方で、社保を完備していることは「働きやすい職場」として採用面での強みになる可能性もあります。


今後の展望

厚生労働省は、最終的に「すべての労働者に適用拡大する」ことを目指しています。今後さらに従業員数要件が緩和され、いずれは小規模企業のパート・アルバイトも対象になるでしょう。

同時に、副業やフリーランスといった働き方の多様化に合わせ、社会保険制度の柔軟化も求められています。例えば「複数の勤務先で合算して社保加入できる仕組み」など、制度の再設計が議論され始めています。


適用拡大への対応策

最後に、適用拡大に備えて個人ができる対策を整理します。

  1. 自分の勤務時間・年収を把握する
     扶養範囲を超えるかどうか、社保加入義務があるかを確認しましょう。

  2. 老後資金シミュレーションをする
     社保に加入することで将来の年金額がどれだけ増えるか計算すると安心です。

  3. 副業の働き方を見直す
     複数収入がある場合、どの勤務先で社保に加入するのかを意識する必要があります。

  4. 税金・保険料のトータル負担を考える
     社保加入で手取りが減る一方、将来の保障が厚くなるため、短期と長期のバランスを考えることが大切です。


まとめ

社会保険の適用拡大は、働き方やライフスタイルに大きな影響を与える制度改革です。

・短時間労働者も社保加入の対象が広がり、保障が充実する

・個人事業主や副業ワーカーにとってはメリットが大きい一方で、扶養調整をしていた人には負担増となる可能性がある

・企業にとっても人件費や雇用管理の課題が増える

少子高齢化の進む日本では、社会保険制度の持続性を守るために避けられない流れといえます。

働く側としては「制度を理解し、自分の働き方にどう影響するか」を知ることが、これからの時代を安心して生きるための第一歩となるでしょう。

 

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