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年金を繰り上げ受給する場合の注意点

2025.09.11【社会保険・年金関連

年金を繰り上げ受給する場合の注意点

早めに年金を受け取るメリット・デメリットと、選ぶ際の判断基準


はじめに

老後の生活資金を支える基盤となるのが公的年金制度です。原則として老齢基礎年金や老齢厚生年金は65歳から受給を開始する仕組みになっていますが、一定の条件を満たせば「繰り上げ受給」として60歳から前倒しで受け取ることも可能です。

しかし、一度繰り上げを選択すると一生涯にわたって年金額が減額されることになるため、「少しでも早くお金を受け取りたい」という短期的な視点だけで決断してしまうのは非常にリスクがあります。

この記事では、繰り上げ受給の仕組みや減額率、メリットとデメリット、実際に検討する際の判断基準について詳しく解説します。これから年金の受給開始年齢を考える方にとって、長期的な生活設計に役立つ情報となるはずです。


1. 年金の繰り上げ受給とは?

繰り上げ受給とは、本来65歳から支給される老齢基礎年金や老齢厚生年金を、60歳から64歳の間に前倒しして受け取る制度のことです。

対象となる年金

  • 老齢基礎年金
    国民年金に40年加入した場合に満額受け取れる基礎的な年金。

  • 老齢厚生年金
    会社員や公務員など厚生年金に加入していた人が受け取る年金。

この両方、またはいずれかについて、60歳以降で請求すれば繰り上げ受給が可能です。


2. 繰り上げ受給の減額率

繰り上げを選択すると、受け取る年金額は生涯にわたって減額されます。

減額率の仕組み

  • 1か月繰り上げるごとに 0.4%減額(2025年現在のルール)

  • 最大で60か月(5年)繰り上げ可能

  • 60歳から受給する場合、65歳開始より 24%減額 される

例:老齢基礎年金が65歳時点で年額78万円の人

  • 60歳から受け取ると → 年額59.28万円(▲18.72万円)

  • この減額は 生涯続く ため、長生きすればするほど総受給額は少なくなる。


3. 繰り上げ受給のメリット

(1) 早くから年金を受け取れる

  • 働けなくなった場合や、退職後に収入が途絶える場合に助けになる。

  • 60歳時点で生活資金に不安がある人には有効な選択肢。

(2) 受給開始前に死亡した場合のリスク回避

  • 65歳前に亡くなると年金を一度も受け取れないが、繰り上げを選べば受給開始時点から年金を得られる。

(3) 働く予定がない人に有利なケースも

  • 在職老齢年金のように働いて収入があると年金が減額される仕組みは、60歳代前半では基本的に適用されない。


4. 繰り上げ受給のデメリット

(1) 年金額が一生涯減額される

  • 一度繰り上げを選ぶと65歳以降に変更できない。

  • 長寿化が進む現代では、結果的に大きな損になるケースが多い。

(2) 遺族年金・加給年金への影響

  • 配偶者がいる場合に上乗せされる「加給年金」が支給されなくなる可能性がある。

  • 繰り上げ受給中に亡くなった場合、遺族に支給される年金額にも影響が出ることがある。

(3) 生活保護との兼ね合い

  • 減額された年金額が低すぎると、老後に生活保護に頼らざるを得なくなるリスクもある。

(4) 税・社会保険料との関係

  • 年金額が減れば、将来的に控除額や医療費負担の面で不利になる場合がある。


5. 繰り上げ受給と繰り下げ受給の比較

一方で、65歳より後に年金を受け取る「繰り下げ受給」もあります。

  • 繰り下げは1か月あたり 0.7%増額

  • 75歳まで繰り下げ可能(65歳から最大10年間)

  • 65歳時点で年額78万円 → 75歳開始なら年額131.04万円に増額

つまり、繰り上げは「短期的な資金確保」、繰り下げは「長期的な老後安定」に有利です。


6. 繰り上げを検討すべき人のケース

ケース1:無職・無収入で生活資金が不足している

→ 生活のために必要であれば選択せざるを得ない。

ケース2:健康上の問題で長生きが難しい可能性が高い

→ 平均寿命より短いことが見込まれる場合、早めに受給するメリットは大きい。

ケース3:退職金や貯蓄が少ない

→ 生活費のつなぎ資金として検討する価値がある。


7. 繰り上げを慎重に考えるべき人のケース

ケース1:長寿家系である

→ 85歳、90歳まで生きると仮定した場合、繰り上げは総受給額で不利になる。

ケース2:配偶者がいる

→ 加給年金や遺族年金への影響を受けるため、繰り上げは慎重に。

ケース3:働きながら受給する予定

→ 繰り上げせずに65歳まで待ち、老齢厚生年金の増額や繰り下げを検討する方が得策。


8. 年金繰り上げの損益分岐点

年金を60歳から受け取った場合と65歳から受け取った場合を比較すると、「どの年齢まで生きると繰り上げの方が損になるのか」が見えてきます。

  • 60歳から受給(▲24%減額)と65歳から受給を比較すると、概ね77〜78歳が損益分岐点

  • 78歳より長生きすれば、繰り上げしない方が有利。


9. 判断のためのチェックポイント

繰り上げを検討する際には、以下の観点を整理しましょう。

  • 現在の生活資金(貯蓄・退職金・収入の有無)

  • 健康状態・家族の平均寿命

  • 配偶者の有無と遺族年金・加給年金の影響

  • 今後の就労予定(パートやアルバイト含む)

  • 公的医療保険・介護保険の負担見込み


10. 専門家に相談する重要性

年金制度は個人の状況によって損得が大きく変わります。社会保険労務士や年金事務所の相談窓口を活用し、自分のケースに合わせたシミュレーションを行うことが大切です。


まとめ

年金の繰り上げ受給は「早く受け取れる」という大きなメリットがある一方で、「減額が一生続く」という重大なデメリットも伴います。

  • 繰り上げは短期的な生活資金確保には有効

  • しかし長生きすればするほど総受給額は不利

  • 健康状態・家族構成・就労状況を総合的に判断する必要がある

「早く欲しいから」という理由だけで決めるのではなく、老後資金の全体像を見据えた判断を行うことが重要です。

 

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